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『七尾さんたちのこと』(著:吉﨑堅牢)

 まず、この記事を読むあなたが『アイドルマスターミリオンライブ!』をある程度知っているという前提で書き出してしまうことを許して頂きたいのだが、あなたが「七尾百合子が自分のアイドル活動について書いた自伝」というものを想像力の限りを尽くして想像して欲しい。あるいは、こんなものが読みたいという期待でも構わない。

 

…………想像していただけただろうか。それでは、以下の小説を読んでいただきたい。なんと無料で読めてしまう。おそらく、あなたが想像をしたもの、期待したものを軽々と飛び越えるものが読めることを保証する。(なお、本作は連載の形式をとっており、次作は秋に発表される予定)

 

 とにかく、解像度が高い。彼女たちがアイドル活動をしている姿が、驚くほどはっきりと目の前に浮かんでくる。七尾百合子の語りで展開されるシーンは、レッスン、バラエティ、握手会、演劇、ライブ、どれも今の世のメジャーアイドルであれば必ず当事者となるであろう場面で、そういった意味ではひねりのない、本当に実直な「アイドル小説」だ。そして、本当におそるべきことに、それぞれのシーンが全て実際にあったことのように思えてくる。喚起されるイメージとしては背景や人物描写が非常に細やかなアニメーション作品が近いだろう(直近で言えば『リズと青い鳥』だろうか)。

 おそらく、綿密な取材・調査に裏付けられているであろう細やかな場面の描写は、それぞれの場でアイドルが何を求められ、何を行い、何と向き合わなければいけないかを残酷なまでに抉り出している。

 「公式」の設定から丁寧に丁寧に掘り下げられた、百合子、紗代子、志保を中心としたアイドルたちの存在感。特に、散りばめられた様々な文学作品からの引用は、小説としての強度とともに、語り手が他ならぬ七尾百合子であるということをどこまでも強く支えている。

 そして何より、アイドル活動へ彼女たちが向き合う思いの瑞々しさ。それは彼女たちを成長という形の変化を与えるに十分な説得力を持たせ、そして彼女たちの成長が成し得る達成は、彼女たち自身はもちろんのこと、『ミリオンライブ!』を知る私たち皆が夢見ているものだろう。

 二次創作として、そして青春アイドル小説として、間違いなく一級品であり、『アイドルマスターミリオンライブ!』を好きでいて良かったと心から思える作品だった。今から秋が待ち遠しい。