2020年私的読んだものまとめ
表題の通り、聴いたものに引き続き読んだもののまとめ。
1.大谷崇『生まれてきたことが苦しいあなたに 最強のペシミスト・シオランの思想』
今年の年明けに読んだ。シオランについてはTwitterのbotアカウントがあり、存在は知っていたので気になって読んだもの。著者自身、シオランの研究者であり、シオランの生涯や思想について丁寧に解説がされており、とても良い本だった。著者自身もあとがきで言及しているとおり、タイトルはどうかと思うけど。
個人的には、シオランが言うペシミズムは前提条件みたいなものなんだよな、ということがあらためてわかって良かった。表紙はつくみず氏が手がけており、これを読んだのをきっかけに『少女終末旅行』も読んだ。また、この辺りで今更ながら坂口安吾の『堕落論』とか太宰治の『人間失格』を読んだりしていたのでこの時期はある種のグルーブ感みたいなものがあった気がする。絶望と仲よくなろう。
2.保坂和志『読書実録』
読んだときの感想はnoteに書いた。
特に小説を読むとき、「筋」に対しての関心がどんどん薄れていっているのを感じていて、これは年齢のせいでもあるのかな、とも思うけれど、面白い小説はただ読んでいて面白いんだよな、というようなことを考えていたら、保坂和志自身もそういうことを言っていたっぽい。
「ストーリー」じゃなくて、小島信夫さん曰く、「そのつどそのつどおもしろい」というか、ずーっと何だかおもしろいっていう書き方が、いちばん、いいんじゃないかと。
— k_hosaka_bot (@k_hosaka_bot) 2020年12月29日
実際、保坂和志の小説は読んだ端から読んだことを忘れるような読み方をしていて、読み終わった後には、文体と、いくつかの印象的なフレーズが残像のように頭に残るような感覚になる。それが心地よくて定期的に読みたくなる。(もちろん書かれているテーマに共感するというのもあるけど。)
3.多和田葉子『百年の散歩』など
多和田葉子は今年初めて読んで好きになった作家だ。新刊は読んでいないけれど『百年の散歩』『雪の練習生』『犬婿入り』と3冊続けて読んだ。多和田葉子の小説は、まさに、「そのつどそのつどおもしろい」小説だと思う。『百年の散歩』はベルリンの街を巡る短編集だが、例えば終盤にあるこの文章の心地よさ。思わず読んでしまう力があると思う。
町は官能の遊園地、革命の練習舞台、孤独を食べるレストラン、言葉の作業場。未来みたいな町の光景に囲まれていれば、未来はすぐに手に入るものだと思いこんでしまう。人を激しく待つ時は特にそうなのだ。待ち合わせをしてうまく会えたとしても、それからもちょろちょろと流れ続けていく時間を忍耐強く生きなければならないことなど念頭にない。今すぐ、ごっそりと全部欲しいのだ。傷つくことなど全く恐れていない。身体ごと飛びついていく。はねつけられたら、さっと離れていけばいい。傷つく必要なんてない。何度ふられても街には次の幸せがそこら中にころがっているのだから。
『百年の散歩』p234
4.伴名練『なめらかな世界と、その敵』・テッド・チャン『息吹』
そういえば両方とも発売日去年でしたね......。2作とも今年に入ってから読んだ。
自分にとってのSFの面白さは(非常に雑な言い方だけれど)設定や世界観がテーマに直結できるところだと思っていて、2作ともそういう意味でとても面白かった。『なめ敵』は登場人物がキャラクター(二次元)的で、だからこそのテーマが描かれているなと思う。『息吹』は現代の延長線上にあるテクノロジーに対する倫理を示すような作品集だった。強いて比較するなら、伴名練は情念の作家で、テッドチャンは理念の作家だと思う。
5.ヴァージニア・ウルフ『灯台へ』
海外文学をもっと色々読みたいなと思っているのだけれど中々読めないでいる。
『灯台へ』も、読もうとしてからチューニングが合ってちゃんと読めるようになるまで時間がかかった。スコットランドの孤島に住むラムジー一家を中心とする群像劇なのだけれど、作品として扱う時間の流れを描写によって表現しているような小説で、例えば第一部は非常に緻密な心情・風景描写によって登場人物達の過ごす濃密な時間を体験する一方で、第二部ではラムジー一家が家から離れると、次から次へと早回しのように時間が過ぎる。物語以上に、そういう映像を見ているような読書体験だった。
6.千葉雅也『動きすぎてはいけない: ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学 』
哲学に対する興味をずっと持っていて、それだけで全然読めていないような状況が続いていて、今年はちょっとミーハーかなと思いつつ千葉雅也の本を手に取った。『勉強の哲学』を読んで、その上でこの本にチャレンジしたのだけれど、やはり難解だった。「繋がること」についての主題は自分にとって興味のあるところで、なんとなく読んでイメージはできるし、実感に対して納得できるような気がするのだけれど、読めたとは到底思えない。
ただ、良かったのは、ここで挙げられているドゥルーズを初めとして、その周辺の哲学者(ベルクソンやヒューム等)が挙げられていたことで、読むとすればこの辺りを読んでみようかなと思えたことで、そういうとっかかりを掴むことはできたかもしれない。体系的に読めれば一番良いのだけれど、たぶん独学では厳しいよなと思ったりしている。
今年一番ちゃんと読んだやつ。こういうものも書いた。
たぶん、シャニマスに関してはイベントシナリオさえ追いかけていれば作品としてのコアな部分は追えると思う。特に今年に入ってからのシャニマスのイベントシナリオは散文的な手つきになってきていて、描写を繋げることでテーマを浮かび上がらせるようなことをしている気がする。「何」を書くか以上に「どう」書くかというところに重点が置かれていると言えば良いのか。デカルトだったりオザケンの連載だったりロラン・バルトだったりといったところから引っ張ってくるのもすごいが、そういう手つきの好ましさがシャニマスの大きな魅力になってきていると感じる。
以上。
振り返ると読むことについては悪くない一年だった。
引っ越して通勤時間が増えたので来年はもう少し読めると良いと思う。